まさか、千円が10万円になるなんて

メガネ屋を辞めた経緯

今回は私のほろ苦い思い出を自戒の念を込めてお話ししたい。

それは私の3度目の転職先になったた某メガネ屋で起きた出来事。

ちなみに、そこでのブチ切れエピソードは下記に記してあるのでお時間のある時に一読願いたい。

最近、年末で退職する人の記事を書いた。 内容をざっくりまとめると「辞めるときってスッキリして気持ちいいけど、残った人に迷惑かけ...

では早速、現在もトラウマになっている「忌まわしい出来事」をお話ししよう。

金の亡者と言われた男

「ヤバイよ、今日まだメガネ売れてないよ!」

頑張り屋さんのメガネ女子Aさんが小声で教えてくれた。

今日は、だいぶ年下だけど先輩のAさん、スーパーウルトラ怖い店長、入社2ヶ月目の31歳のおっさん(私)の3人体制で店をきりもり。土日祝は5名体制だけど平日は大体3名で回している。

当時はメガネが売れないとレジ締めできない設定になっていて、メガネが売れない日は社員がメガネを自腹購入しないと帰れないという超ブラック企業だった(今は不明)

その日は何となく客入りが悪くて、使い捨てコンタクトレンズのお客さんが数名来る程度。

そんな状況だったので3時を回った頃には店長の機嫌がメチャクチャ悪くて、Aさんと私はガタブル状態。

Aさんは3年やってるので一通りのことはできるし、女子なので怒られることはあまりないけど、私は入社2ヶ月目で怒られる要素満載の使えないおっさん。

たぶん、怒鳴られまくった挙句、メガネ買わされるんだろうなぁと勝手に覚悟していた。

そんな絶望しかない監獄の中で、何度も何度も同じメガネをフキフキして時間を潰す。

・・・

・・・

・・・

胃が痛くなるような無言空間。何とも気まずい空気が漂う。

そんな絶望的な状況の中に、おばあちゃんがふらりと入店。そして私に話しかけてきた。

「老眼鏡買いに来たのよ。千円くらいであるかしら?」

「ございます。ご案内します」

私は老眼鏡コーナーへおばあちゃんを案内した。商品を手にとっておばあちゃんに見せる。

「では、レジはこちらです」

そう案内した瞬間、半端ない殺気を感じた。強烈な目線を感じた刹那、一番奥の棚と棚の間から店長が私を睨みつけていた。それはもう、ひどく恐ろしい顔で・・・

なぜ睨みつけていたのか。その理由は分かっていた。私がマニュアル通りの販売をしなかったから。

安価な老眼鏡を買いに来たお客様には通常のフレームにレンズを入れることを提案したりして、少しでも高い単価の商品を売るという販売マニュアルを実践しなかった。

なぜなら、やさしくてかわいいおばあちゃんだったし、急いでるようだったのであえてやらなかったのだ。

しかし、そんな綺麗事があの店長に通用するわけがない。

ヤバイ、このままでは殺されるかもしれない・・・

死亡フラグが立ちまくったこの状況に脳細胞が生命の危機を察知したのか、2ヶ月間やってきた店長とのロープレを思い出しながら、営業トークを炸裂させていた。

  • 「老眼鏡はどれくらい使うんですか?」
  • 「そんなに使うなら強度が強いフレームにした方がいいですよ」
  • 「このフレームは5万円ですけど、5年は持ちますから1日30円以下ですよ」
  • 「フレームが良い物ですのでレンズも良い物にした方がいいですよ」
  • 「それでも1日60円くらいですから。それで快適な生活が送れるならタダみたいなものですよ」

生命の危機を察知した脳細胞が私の潜在能力を限界まで開放したようで、淀みないしゃべりと訳の分からない理屈が次から次に口から溢れ出す。

そして約1時間後、1,000円の老眼鏡が120,000万円の高級メガネに確変してしまった。

まさかの120倍。

「ありがとうございました」

おばあちゃんの背中に、店長とAさん、そして私は深々と頭を下げた。

おばあちゃんは帰り間際に「千円の老眼鏡を買いに来たのに・・・」とぼそっと言ったのが少し気になったけど、商品自体は良いものだし、使っているうちに喜んでもらえるはず。その時はそう思っていた。

店長が「〇〇さん、やるじゃない」と最高の笑顔で握手を求めてきた。

さらにAさんも最高の笑顔で祝福してくれた。みんな喜んでくれて私も本当に嬉しかった。その後、お客さんはさっぱりでさらに私の販売した老眼鏡の価値が高まった。店の閉店作業中も私のキラートークの話題でもちきりだった。

文字通りヒーローになった気分。

しかし、ヒーローになれる時間はそう長くはなかった。

次の日、事態は急転直下。

なんと、あのおばあちゃんと息子さんが返金してほしいと店を訪れたのだ。しかし、もうレンズも削ってしまったので返金はできない。店長が必死に説明しても息子さんは一歩も引かない。

「なんで1,000円の老眼鏡買いに行ったおふくろが120,000円のメガネ買ってくるんだよ。意味わかんねぇよ!」

徐々に2人のテンションが上がっていった。もはや、私の入る余地はなかった。

そして、怒鳴り合いになりそうな瞬間、おばあちゃんが止めに入る。

「もう、いいよ。私が悪かったんだよ」

そして、おばあちゃんは私に一言。

「〇〇さん、ごめんね。嫌な思いさせちゃって・・・」

その瞬間、私の中で「何か」が崩れた。

さらに息子さんが私に一言。

「金の亡者だな」

そう言い残して2人は帰っていった。

店長も他のスタッフも「気にしなくていいよ」「逃げ切れて良かったな」と声をかけてくれた。

しかし、私はこの時「おれ、この仕事向いてねぇや」と思った。おれはこんなことやりたいわけじゃない。

それから数週間後、別の店舗に異動することに。

そして、冒頭のブチ切れエピードへ繋がるのであった。

まとめ

店員として私の行動は間違いではない。商品の価値は金額相応だったし、お客さんも商品の価値を理解して購入している。

しかし、この後味の悪さは、私の考え方、もっと言えば人生観を変えるほどのインパクトがあったこともまた事実。

それは10年以上経った今も私のトラウマになっている。

そして、売るものが変わっても10年経っても私はいつも自分に問いかける。

これは本当に「win-winの取引」なのかと。

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