一瞬で心を掴むキャッチコピー
ああ、疲れた・・・
取引先からの帰り道、後悔しながら歩く1人のおっさん。話は平行線で結論はまた持ち越し。ああ、上司になんて言おうか・・・
駅に向かいながらトボトボ歩いている失意の中年おっさんに突然死角から白黒の物体が接近してきた。そして、脇をキュッキュキュッキュしながらこう言った。
「萌え萌えしませんか?」
おそらくメイド喫茶か何かのキャッチだろう。
仕事でよく行く秋葉原ならよくある光景で、こちらも身構えて楽勝でスルーしてきた。そもそも私はこの手のキャッチが大キライなのでティッシュすら受け取らない硬派なおっさん。
しかし、不覚にもあの日の夜は、ティッシュすらないのにビラを受け取ってしまった・・・
たぶん生まれて初めて。おっさんの初体験である。
疲れていたこと、悩んでいたこと、気が緩んでいたこと、その他にもいろいろな要因が重なりあって起きた奇跡。
殺傷能力、はんぱねぇ・・・
さらに、こちらがゲンナリするほどの笑顔がそこにあった。
まさに元気の押し売りである。さらに萌えちゃん(仮称)は一気にクロージングに入った。どうやらかなりやり手の営業マンのようだ。
「一緒に行くにゃん?」
もちろん両手は猫の「にゃんにゃんポーズ」
「うん、行くにゃん」
・・・
・・・
・・・
・・・
とは、さすがに言えず「また今度ね」と大人の対応。
しかしこのセリフ、我ながらよく言えたなと思う。完全に思考停止の中、必死に振り絞った渾身の一言であった。顔は苦笑いでひきつってたので萌ちゃんはさぞかしキモかったろうと思う。
その後、何とかにゃんにゃん攻撃をかわして電車に飛び乗った。そしてあらためて考える。
なぜ、おれはビラを受け取ったのか。奇跡の理由を考える。
考えた結果、一つの仮説にたどりついた。
このキラーフレーズ「萌え萌えしませんか?」は、彼女が「仮説⇒実験⇒検証」を繰り返して磨き上げた会心の一撃であると考えた。何十人も声をかけ、反応をチェックし統計をとって辿り着いた会心の一撃。
私が着用するみかわしの服(攻撃を回避しやすくなる:ドラクエ2で初登場し、以降の作品にも登場)ほどの防御力では太刀打ちできなかったのだ。
そして、キャッチコピーとしても優れている。
私のように萌え文化に全く興味がない人間でも、男の潜在意識に訴えかける「しませんか?」という要らぬ妄想をかきたてるフレーズ。さらに「萌え」を2回繰り返すことにより、生まれるファジーなリズム。そして間髪入れず「一緒に行くにゃん?」
まさに愛と青春のフルコンボである。
よし、キャッチコピーから練り直そう。
先程の取引先との交渉は、元を辿ればうちの「商品・メニュー」が売れなかったことが原因。であれば、もう一度お客様との最初の接触を強化してみよう。
- アイキャッチ効果を高める
- キャッチコピーを練り直す
- クロージングのストーリーを練り直す
今やるべきことを萌ちゃんは示してくれた。あとは実行あるのみ。
「ありがとう、萌ちゃん」と夜空につぶやき、愛する家族の待つ我が家へ。
少し足どりが軽くなったような気がした。
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